第五回 結果発表

第五回FFCドキュメンタリー映画祭に、非常に多数のご応募ありがとうございました。

今回も強いメッセージ性を感じることができる作品からほほえましい気持ちになる作品まで、多様な作品を見ることができました。

最終審査の結果は以下の通りとなりました。受賞された皆さま、おめでとうございます!

(※動画は後日公開いたします)



グランプリ
「春一番」

赤川 純さん(ウッチ映画大学 監督科)作

【講評】

小松 敏和

どこにでも居るであろう真面目で律儀そうなお婆さんの日常が、何の説明もなく流れます。人生の重みや老いの孤独が殊更強調される訳ではありません。

それでいて、無口で無愛想であったであろう夫との日々が頭に浮かびます。それが彼女にとってかけがえのない宝物だったのだろうということが想像できます。

それが制作者が伝えたかったことかどうかは分かりません。もしかしたら何かを伝えたいという意図もないのかも知れません。

ただ、このお婆さんが生きている(生きていた)ということが、観た人の心に確かに刻まれると思います。

小坂 誠

老婆の暮らしをナレーションやテロップ無しでじっくり見せることで、観客に様々な想像の余地を与えてくれます。食事、カレンダー、部屋にある様々な物の一つひとつが、このおばあさんのことを知るための糸口となります。

また、音の入れ方も良く、時計の秒針、料理の音、漬物を噛む音、電話のコール音、そして雑踏の音など、静かな映画だからこそ重要な役割を果たしています。

おばあさんがいつもカレンダーをじっと見つめている意味が終盤で明らかになる構成も良いです。

一人の暮らしの静けさは、おばあさんにとっても初めて経験する“慣れない”静けさであったのでしょう。人生の終盤に部屋に吹き入る「春一番」は、この老婆にとってどんな季節の訪れを告げるのでしょうか。

余韻が広がる終わり方も素晴らしかったです。

有田 洋之

ナレーター泣かせの作品ですね。

撮影者(カメラ)の存在を意識させない、おばあさまの佇まいに加え、秒針の音、料理や食事の音、動作ひとつひとつの生活音がBGMであり、雄弁な語りである様に思いました。

タイトルは、春一番だったのでしょうか。これまでの長い人生の中に暖かな部分も垣間見えた、小春日和な感じでした。

苧玉 和也

祖母の日常を静かにFIXで切り取り、1カット1カットにテーマが込められた作品でした。なにより、丁寧な構図からは、制作者の意図がしっかりと伝わってきました。

ただ一歩踏み込むと、「老い」や「別れ」は普遍的なテーマですが、その後に続く人生は人それぞれです。もし「その人だけの物語」がもう少し描かれていれば、観る者は「知らなかった誰かの人生」に出会えたのではないかと思います。

今回は少し、「誰にでも当てはまる話」に寄りすぎた印象もありました。


準グランプリ
「今年は実家に帰りません」

君島 嘉華さん(上海交通大学 メディア学部)作

【講評】

小松 敏和

登場する若者たちが、よそ行きの言葉ではなく、正直な思いを素直に語っていることがよく分かります。撮影者が同年代の学生であることで信頼関係ができているのでしょう。

日常生活が豊かになってきたことで、伝統的な祭事の特別感が薄れている状況がよく分かります。これは様々な国や地域に共通のことなのでしょう。中国の若者たちの言葉から、そんな普遍的な状況に思いを拡げることができました。

彼らの親世代の思いも聞いてみたい気もしますが、これは欲張りすぎでしょう。ちなみに、日本でも正月に帰省しない人はたくさんいますが、中国では春節に帰省しないことはかなり特別なことなのでしょうか。私は理屈っぽい方なので、そのあたりの情報があれば、若者たちの思いや葛藤をもっと強く受け止めることができたような気がしました。

小坂 誠

「春節に帰郷しない若者たち」という目の付け所が素晴らしく、中国でしか撮れないテーマでもあります。被写体となった若者たち一人ひとりには個別の事情が描かれつつも、親世代との確執や伝統への反発といった中国社会全体の時代の移り変わりが浮かび上がってきます。彼女たちは孤独に生きるのではなく、自分たちなりの共同性を築き上げていて、それを魅力的に映せていると思いました。監督と被写体との関係性も自然で心地よいです。

終盤の食卓シーンはドラマ作品の1シーンのようで、絵的にもテーマ的にも本作の大きな魅力になっていました。中国のおなじみの年越しテレビ番組の音声をしっかり入れ込むことで「春節らしさ」を作品に自然なかたちで加えている点もうまいです。

だからこそ、食卓シーンでのテレビ番組のイメージ図や野外トイレの写真は不要だったと思いました。ドキュメンタリー映画の観客は、そこで交わされている話の内容を具体的に知りたいのではなく、この食卓の雰囲気から伝わる言葉にできないものを感じ取りたいはずだからです。また、補助的ないくつかのテロップも不必要と感じました。

有田 洋之

友人にしか見られない、見せない表情にリアリティを感じました。本音と思われる語りが多々ちりばめられていて、今の中国の若い人たちが現代中国をどう感じているかを知れたように感じました。

どの国も、どの時代の若者も社会に対する思いはよく似たものだと感じたのと同時に、中国で生活したことがない私は、この若者たちがニュースや報道で知る今の中国の体制の中で、何らかの圧力がかからないのか少し心配になりました。

最後に『目標のために生きるのではなく、幸せな時間をつなぐ』という言葉がありました。考えさせられます。

苧玉 和也

春節に実家へ帰らない中国の若者たちに着目し、それぞれの自己表現を描いた視点がとても印象的でした。自由な自己表現が制限されがちな共産主義下の中国において、若者たちの「多様性」をユニークに映し出している作品だと思いました。

だからこそ、彼らの両親世代との文化的な対比も見てみたいと感じました。


特別賞
「みかん農家 井上信太郎」

杉村 乃惟さん(立命館大学 映像学部)作

【講評】

小松 敏和

善兵衛農園のみかんを食べたくなりました。間違いなく甘くて美味しいでしょう。未来を見据え、家族を大切にし、確かな技術と愛情を持ってみかんづくりに取り組んでいることが伝わってきます。

農家としても家庭人としても完璧です。ただ意地悪な言い方をすればPRムービーのような印象を受けてしまいます。ドキュメンタリーとして観た時、そこに物足りなさを感じました。

地域の農家の方々はどう見ているのか、温暖化などへの不安はないのか等々、心に引っ掛かるもの、良くも悪くもこの作品でなければ得られないものが欲しかったです。

みかんも甘さだけでなく、酸っぱさや雑味があってこそ味わい深いものとなります。その意味で残念さはありますが、技術力を評価して特別賞としました。

小坂 誠

13分と短い作品ながら、しっかりと取材対象の魅力が伝わってきました。井上信太郎さんのさわやかな印象と、みかんのフレッシュなイメージが映像の雰囲気とマッチしていた点も良かったです。

インタビューの事前アンケートをあえて公開するという手法は、短い作品の中で情報量を増やす工夫としてうまいと感じました。

映像作品としての完成度は高いと感じましたが、ドキュメンタリー映画としては物足りなさも感じました。作り手の主観的な思いやテーマを根幹に据えることで、より強い作品になるのではないかと感じました。

有田 洋之

みかん農家というよりビジネスマンな感じがしました。

『〇〇大陸』でいけますよね。その番組では、印象的なナレーションがついていますが、昨今、ノーナレがもてはやされている様な風潮です。インタビューの様な形であれば、ナレーションを入れた方が、ディレクターの意図がより明確になるのではないかと思いました(ナレーターの売り込みに聞こえたらすみません)

もっと作業している様子や、みかんをおいしそうに食べる顔が見たかったです。

苧玉 和也

人生のヒントにしたいと感じる作品でした。みかん農家としてのプロフェッショナル、いわば“みかんバカ”とも言える井上さんの姿を、もっとたっぷりと見てみたいと感じました。

人生論や哲学的な要素も興味深かったですが、もう少しボリュームを抑えてもよかったかもしれません。


入賞
「きらめき、よぞらの星になれ」

篠田 光桜さん(横浜デジタルアーツ専門学校 メディアクリエイティブ学科)作

【講評】

小松 敏和

「私的ドキュメンタリー」と言ったら良いのでしょうか。制作者は、子供の頃の思いや感性を甦らせたくて、この子供たちを撮影したのでしょうか。もちろん、それだけでは個人的なノスタルジーで終わってしまいますが、観ている自分の心の中にも、子供時代の微かな記憶が蘇りました。これは、子供たちの様子を根気よく丁寧に捉えているからだと思います。「私的ドキュメンタリー」であると同時に、「詩的ドキュメンタリー」と言ってもよいのかもしれません。

ドキュメンタリーは、限りなく叙事的であるべきだと思いますが、本作はとても叙情的です。人によって評価が分かれるかもしれませんが、私は強く惹かれました。ただ、ナレーションに関しては説明過多に感じました。その想いを映像で伝える工夫があれば、さらに完成度が高まっていたと思います。

小坂 誠

子ども時代の夏の田舎でのひとときの楽しさが、短い映像の中に収められており、子どもたちの豊かな表情をしっかりと捉えられていると思います。

子ども時代に元気いっぱい体を動かし、全身で感じ取った夏の時間を、観客に(頭で理解させるのではなく)体感させる作品になっているかどうかが、本作の一つのポイントだと思います。その意味では、ナレーションは全体的に不要だったのではないでしょうか。監督の伝えたい思いや感性をすべて言語化してしまっている点が惜しく感じられます。本作のナレーションで語られたことを一切語らずに、観客の能動的な思考や感性に委ねる(観客を信頼する)ことが、ドキュメンタリー映画の醍醐味でもあると思います。

有田 洋之

とても良い場所ですね。誰もが感じたであろう夏の瞬間が、瑞々しく捉えられていたと思います。

少し厳しい言い方をすると、ドキュメンタリーというよりは、素敵なホームビデオに近い印象です。蘭ちゃんと、自分の小さい頃にあった具体的なエピソードが、オーバーラップするような部分はあったのでしょうか。その点をもう少し深掘りすれば、より共感の持てる作品になっていたように思います。

詩的なモノローグは、文章も声のトーンも良いと感じました。並べた缶がすべてアルコールというシーンには、親近感を覚えました。

苧玉 和也

大切な場所や時間を、叙情詩のように刹那的に描いた世界観が印象的でした。ただ、ナレーションに頼りすぎている印象もあり、映像そのものから語りかけてくるような表現を目指せると、さらに深みのある作品になるのではないでしょうか。


「ハッピーロード~大山再開発のゆくえ~」

楠城 昇馬さん(早稲田大学大学院政治研究科 ジャーナリズムコース)

【講評】

小松 敏和

分かりやすくコンパクトにまとめられていますが、ドキュメンタリーとしては物足りなさを覚えました。商店街を隈なく歩き、商店一軒一軒を訪ね、買い物客一人一人の意見を丹念に拾い集めるような地道な取材が行われたのか、あるいはなかったのか。

また、開発計画の突然の変更が問題の発端となったとのことですが、変更の理由や地域の人たちとの話し合いが持たれたのかなど、疑問が残ります。

作品解説には、行政や組合の取材を断られたとありますが、そこで終わらず、なんとかそこに迫ろうとする粘りが欲しかったです。それで結論が出なかったとしても、その執念が作品に現れていれば、もっと力のある作品になったのではないでしょうか。

これは完成した作品というよりは導入部であると受け止め、今後に期待して入賞とさせていただきました。

小坂 誠

大山再開発問題という地元の人にしか知られていない問題を知るきっかけになる作品で、複数の人に取材している点は良かったと思います。

ただ、作品として5分に収める必然性はあまり感じられなかったため、もう少し深く掘り下げてもよかったのではないでしょうか。ドキュメンタリー映画というより、この問題についての駆け足の解説動画という印象でした。

また、本映画祭の条件である「人物を主軸にした作品」にもなっていないように感じました。

有田 洋之

関西人の私にはあまり馴染みのない場所ですが、関東圏では広く取り上げられているのでしょうか。事の大小に関わらず、実際に自分で取材し映像にすることは大変な作業だと思いました。

再開発する側の意見を聞くことはなかなか困難とのことでしたが、やはり双方の意見があると見る側の考えるヒントが増えるのではないでしょうか。互いの話を深く聞くには時間も労力もかかると思いますが、そこを乗り越えて、これからもドキュメンタリーを作り続けてほしいです。

苧玉 和也

マイノリティの声に耳を傾けることは、ドキュメンタリーの基本だと思います。この問題に正面から向き合おうとする姿勢には敬意を表します。

ただ、第三者の立場からこの問題を見つめたとき、時代の変化や経済の論理と個人の利益を比較すれば、「道路建設はやむを得ない」という結論に至る人も少なくないのではないかと考えました。

その前提を超えて人々の心を動かすには、それを凌駕する何か、より深い共感や新たな視点の提示が必要だったように思います。

FFC学生ドキュメンタリー映画祭

プロのエディターによる学生向け映像コンペ! 受賞作品は学校などの授業教材として使われます! 映像制作・編集を考える一助になる映像祭になればと思います。

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